クリップを探して居た。
此が彼です と誇らしく世界へ紹介出来るような
今夜に似合いのクリップを。
正直 歌は巧い方ではない。
尤も 歌うと言うよりは詠う彼だから それを取り沙汰する者は滅多に居ない。
オマケに近頃の彼は 人の子らしく老けてきた。人目に晒す以前に 細くなってしまった喉元へ瞬きも恐れ触れて過ごすのは どうにもせつない。
それに 彼は一人だ。彼はずっと一人で立って居る。彼の周囲には大勢が絶えないけれど 仲間は在っても 僕の前に現れた時から現在まで 彼はずっと一人だ。
一人で居る者に対峙し続けるのは 時々 とても苦しい。
なのに彼を聴いてきた 今夜も聴いて居る。出逢ったり 離れたり また出逢ったりしながら 離れているときでも謳いながら もう二十年以上 彼を聴いて居る。
クリップを探して居た。
此が彼です と誇らしく世界へ紹介出来るような
最も彼らしく映るような そんなクリップを。
探しながら ずっと考えて居た。
何故それほど巧くもない彼を 僕は聴いてきたのだろう? 何故彼は ずっと一人なのだろう?
幾度目かの紫煙を吐き出した時 代わりにすうーっと答えが入って来た。
それは 彼が詩人だから だ。
彼は詩人だ と言ったのは なにも僕が初めてではない。
詩人の仕事は 神の眼差しを人類が理解する記号に換えて人の世へ示すことであって そういう詩が出来上がったなら 詩人自身にはもう 何も為すべき事柄なんか無い。詩は彼の手を離れ彼をさえ超え 一個の生命を宿して あの人やこの人の心の中に 日常に 棲みつき 生きる。或いは 死ぬ。
僕はそういう詩を 其れを 聴き続けてきたのだ。詞ではなく 詩を 表現する者ではなく 表現されるものを 聴き続けて居るのだ。
そういう詩を高らかに詠いながら 世界の真ん中に孤独でなかった詩人なんか 古今東西何処にも居ない。
——クリップはとうとう見つからなかったけれど 一番大事な答えを探り当てて
ブラウザを
今夜はもうブラウザを
閉じるよ 元春——